十数年に渡る知的障害児への和太鼓指導の活動を経て、臨床和太鼓研究所  主宰 山名利枝が独自に研究・開発した実践方法です。その定義は、『子どもの発達課題克服のために、臨床心理学と発達心理学の理論に基づき、和太鼓を用いる集団活動』というもので、発達検査で明らかになった課題に対し、和太鼓を通してどのようにアプローチできるかを考え、保護者や療育担当者と共に実践し、課題の克服や気になる行動の軽減を目指す活動です。療育やセラピーとしての活動であるため、一般的な習い事という位置づけの和太鼓とは主旨が異なります。


 “臨床和太鼓”の誕生は、次の2つのことがきっかけでした。何年も太鼓をやっているのに、いっこうに曲を覚えられない男児がいました。間違えながらも繰り返し打っているうちに、ほとんどの子どもが自然に覚えていくのに対し、その男児だけは例外で、私はとても不思議に感じていました。ある日、私の言う4つの数字を繰り返して言うように求めると、その男児は正しく言うことができませんでした。4つの数字を覚えることが難しい子どもにとって、8拍分のリズムを覚えることはもっと難しかったのではないか?と、私は深く反省しました。それまでは曲の指導をする際、8拍ずつ切って一斉に教えていたのです。それ以降、その男児には、マスターすべきフレーズを明確にしたうえで、8拍よりも短い拍数に切って個別指導をするようにしました。その結果、男児は5年近くの間覚えられなかった曲を、なんと半年でマスターすることができたのでした。
 一方、私の指導するチームでは、太鼓を打ちながら全員で声に出して打数を数えることを基本としていますが、他の子どものように数を数えることが難しい女児もいました。その女児に、横に並べた4個の積木を数えさせると3個までしか数えられませんでした。しかし、その女児は、みんなと一緒に打数を数えることを繰り返していくうちに数唱が可能になったのか、あるいは、数の概念がすすんだのでしょうか、4個の積木を数えることができるようになり、徐々にその数を増やし、半年の間で7個まで数えられるようになりました。さらに、太鼓では1人で8拍まで打つことができるようになったのです。これらのことが発達検査と和太鼓を結びつけ、和太鼓が発達課題の一助になるのではないか?と考えるきっかけになりました。そして、これまでの知的障害児への和太鼓の指導をベースに、公的機関での健診業務や療育現場で培った経験をさらに生かし、発達課題の視点から指導する新しい和太鼓“臨床和太鼓”を誕生させるに至ったのです。


上述の通り、知的障害児との和太鼓活動がベースになり誕生した臨床和太鼓ですが、大人の方を対象とした病院臨床においてストレスの存在を痛感するようになり、大人のストレス・コントロールに活用できないものかとの思いが、私の意識の水面下にあったのだと思います。足の痛みの治療に来られた患者さんが「できるものなら打ってみたい」とおっしゃった一言が、慢性的な痛みやストレスを抱える大人の方にも必要とされるのではないかと考えるきっかけになったのです。身体に痛みがあるからと言って、必ずしも運動制限があるわけではないことを、その患者さんの主治医からお聞きし、精神的なストレスだけではなく、身体的なリハビリとしても有効なのではないかと考えるようにもなりました。また、和太鼓は複数で行う活動であるため、無意識のうちに他の人と息が合ってくるという現象が生じます。このことは、子どもだけではなく、大人の方にもきっと他の人と共有する喜びを実感していただけることと思います。

※大人の方を対象とした“ストマネ和太鼓”の開設に伴い、子どもを対象とした臨床和太鼓を“療育和太鼓”と呼称変更することにいたしました。

臨床和太鼓研究所  主宰 山名利枝

 
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